お産は未知の世界。
初めてのお産となれば、どこまでこの痛さが続くのだろうか?もう耐えられない、いつまでがんばらないといけないのか?こんなに痛いのにまだうまれないの?などなど、どんなに待ち望んでいたお産とはいえ、不安はあって当たり前だろう。
「この陣痛を待ってたんだよ、早く出ておいで」とだけ思えればいいが、人間誰しもそんなに聖人ではない。痛いものは痛いし、つらいものはつらい。
あと何時間・・、という、筋書きもないし、教科書どうりの進行ではない。それだけではない。予告もなく異常はおこる。どんなにいいお産であっても、赤ちゃんがしんどくなることや、また、スムーズに終えた跡に出血が止まらなかったり、全くそこまで問題がなくても血圧が突然に上ったり。経膣分娩でも、帝王切開でも、異常と正常は隣り合わせだ。
そんな毎日、一人、二人、と生まれてくる赤ちゃん。
昨日のお産も、初産婦さん。
まだ夜も空けない5時の入院。
破水だけの入院で、まだまだ、陣痛らしい陣痛はない。まだ、子宮口はほとんど開いてない。
お昼までは、食事がほとんど食べられるくらいまだ余裕があった。
お昼過ぎから呼吸法が必要な痛さがあった。でも時々。
15時に5cm。その頃から規則的に陣痛が来た。お父さんも会社を早退し来院。
17時過ぎに9cm。18時半に全開10cm。
初産婦さんにしたら進行が早い。
早めに分娩室に入り、気分を慣らしていく。
私も、赤ちゃん係りの看護師も、そして、もちろん、お父さんも、今から生まれようとしている赤ちゃんを待ち望んで準備する。
お母さんはすごくしんどいのに、会話がスムーズで途切れない、呼吸法も全く無駄なく出来ていて、赤ちゃんも全くストレスがかかっていない。
「あと何回いきんだら生まれるの?教えて~10回でいい?10回って言って~。7時くらいに生まれる?それ以上かかるの?」
・・あと何回と言われるのが一番つらい。早く楽にしてあげたいが、あと何回と知りたいのは、私も同じだから。
『じゃ、とりあえず10回いきんでみようか。それから次の目標決めよう。』
『上手に出来ているから7時目標にしようね。私が青い服を着たら赤ちゃん出る準備だよ。まず、それ目標にしようか』
「もう頭出た?青い服まだ着ないの?」
いや、頭が出たら、もうあと数秒でおめでとう、なんだが、頭が出るまでが時間がかかる。まだまだ。
『頭のてっぺんが陣痛の合い間も見えてきたよ、いきむたびに大きく見えてくるよ』
私と看護師の二人で言葉をあれこれ変えながら、お母さんを励ます。右手はご主人、左手は看護師、陣痛の合い間は気分を紛らわすのに私の太ももをキック、キック。会話は途切れることなく過ごす。もちろん、私たち医療者は楽しいだけではいけない。予告なしに訪れる異常には対応できるように緊張感はある。顔で笑って、楽しい会話をして、頭の中はバリバリ神経を張り巡らす。
そして、院長登場。
「呼吸法もいきみ方もうまいな、もう少しだ」
さらに、お母さんはもっと上手にいきめて・・・そして、元気な男の子が生まれた。すぐに大きな声で泣いてくれた。なんと、目標にしていた7時3分。10回いきんだら、と言っていた10回目のいきみで!
おめでとう!
お母さんは成し遂げたあと、すぐ赤ちゃんを抱っこして感動。
お父さんは・・・。
めがねの奥からあふれる涙を必死でハンカチで押さえておられた。声も抑えて、顔を上げられないほどの涙。実はお父さん、お産が怖かった。点滴も、血も、診察すら怖かった。でも、必死で一緒に呼吸法をして、ギュッとお母さんの手を握って、一緒にお産をしてくれた。
まだ、生まれたままの赤ちゃんを抱き、泣き笑いのお母さんの横で、感動の涙で声が出そうになるのを抑えるお父さん、それでも、そっと、生まれてきたわが子の足先を触る。
そして、私たちは、「本当にお母さんもお父さんも○○くんも(生まれる前からお名前が決まっていたのでみんなで呼んでいた)がんばりましたね。おめでとう、良かったね」と心から祝福。
いつもの光景だが、いつも、違う感動をする。今日も感動。
いいお産。楽しい会話の中で、無事、異常なく終える。
こんなに幸せなことはない。よかった、と心底思う。
それは、”お産は命がけ”だからだ。本当に・・。
eri.hosoda
丸2年
1月19日、細田クリニックの建物の2年目点検が行われた。
そのときほめて頂いた言葉。
建築会社の方からも、設計事務所の方からも、言っていただいた。
「すごくきれいに使ってもらっている」と。
私は、毎日この建物の中にすごしていると、
「汚くなったな~」「最初はこんなジュータンの色じゃなかったな~」と思うことはよくある。
だが、九州から来ていただいた設計士さんは、全国で1年目点検や2年目点検をされているわけであって、比較できるのであろう。きれいでびっくりされていた。
ほめていただいて、改めて、うれしかった。
ほとんど無傷で、未だに来られた方が、「新しいクリニックですね」と言って下さる時がある。そんなときは、いつも、「いいえ、古くなりましたよ~」と答えていたが点検でほめていただいたときは、素直にうれしく思った。
こういう評価は周りからしてもらわないと、そこに日々過ごしている私たちにはあまり感じ取れないものだ。
でも、よく考えたら、スタッフみんなが、建物を、というか、建物も、大切にしてくれている。
お産が終わったあとの分娩室、いつも、ピカピカに磨いてくれている。床をモップでふきあげてくれるスタッフ、雑巾で這いつくばって、白衣の裾を捲り上げてふいてくれてるスタッフ、真夜中であっても同じである。お産のあとは、血液や羊水など床や分娩台に、目に見えない汚れとしてたくさんある。掃除は基本であるが、決して、目につかない汚れであろうと、手抜き、「まあ、これくらいでいいか」という考えはない。本当に必死できちんとやってくれる。クリニックの中の小さな傷や故障を見つけてくれると即報告してくれるので、大事にならずに済んでいるのも事実。器具なども大切に使って、移動も細心の注意を払ってくれている。
セクレタリーも日々環境整備には力を入れてくれている。小さいお子様連れの入院部屋はどうしても食べ物の汚れやジュースなどのこぼれは避けられない。また、産科である以上、出血の汚れは仕方ない。そのどんなときも、いろんな手段で、跡形もなく、きれいにしてくれている。
院長は、天気のいい日曜日には、軍手をはめて、外の草むしりや、壁の汚れ落としをやっている。先日も、自らホームセンターで外の天井用のほうきを購入した。これで、駐輪場の天井がきれいにできる・・と、暖かくなる日を待ちわびている。
こうして、毎日培われている思い。
誰しも、汚くて、傷だらけの古いクリニックより、清潔で、ピカピカのクリニックに受診したい。(建物だけではなく中身が1番大切であるのは前提ですが・・)特に、女性の集まる産婦人科は、子供さん連れ、ファミリーで・・も当たり前。多数の方が来られれば汚れや傷みも多くなる。
でも、どんな方が来られても、そして、何年経っても「まだ、新しいクリニックだね」と言ってもらえるようにしたいものだ。
eri.hosoda
大震災
今日は大震災が起こって13年。
あの、テレビの画面で映し出される映像は忘れもしないし、くっきり思い出される。
高速道路が横倒し・・民家何軒も連なって押しつぶされている・・速報で「死者○○人」と流れるたびに、増えていき・・。
本当に電車で1時間行けばたどり着く所で起こっているとは思えない光景だった。
もちろん、命を亡くされた方も多いが、その災難の中で、出生した、というニュースもあった。仕事柄か、そのニュースも鮮明に覚えている。
生まれる、ということは、何千年前から、同じである。
まだ、人類が、服を着る習慣がない頃も・・まだ、車もなく、郵便もなく、エッホエッホと籠を担いで走っていた時代も・・
そして、医学がどんなに発達しても、情報がドンドン行き渡っても・・
赤ちゃんは女性の子宮に妊娠し、子宮の中では胎盤から血液と酸素をもらい育っていく。10ヶ月経つとこの世に生まれてくる。
きっと、あと100年経ってもそれだけは変わらないと思う。
どんなに人間社会が変化していっても、変わらないと思う。
だから、13年前の大震災の日でも、生まれてくる赤ちゃんは、何千年もの自然の摂理のまま、生まれてきたのであろう。
もしかすると、今、こうしている間にも、大震災は起こるかもしれない。
何も残らないかもしれないけど、そのとき、「陣痛が来ました」「破水しました」という電話があれば、いやいや、電話は通じないだろうから、直接こられたら、いつものようにお母さんの体から赤ちゃんを迎えてあげなくてはいけない。
無事生まれたら、「おめでとう」を言って上げようと思う。
水がなくても、電気が暗くても、いつものように、いっしょに呼吸法をして、「よかったね~」と言ってあげよう。
生まれてくるということは、何千年も前と変わりないはずだから・・。
震災の真っ只中で生まれてきても、恵まれた環境で生まれてきた赤ちゃんも、生まれてくる赤ちゃんは何も知らない。よく生まれてきたね、お母さんお父さんがんばられましたね、と言ってあげよう。
そういう時も避難場所に逃げられない仕事かな(笑)性格かな(笑)
だから、日ごろ、我が家の子供たちには言いきかせてある。
もし、大震災が来たら、西京極運動公園が避難場所だから行きなさい、私たちは姿は見えなくても、クリニックに向かっているからね・・と。
eri.hosoda
2008年もお願いします
あと2時間半で2007年を終えて、2008年を迎える。
今、ほっと一息つき、紅白をチラッと聞きながら、年越しそばの準備ができることがこの上ない幸せを感じる。
大きな問題もなく、200人以上の赤ちゃんが元気に生まれてきてくれたこと、その赤ちゃんのお父さん、お母さん、おじいちゃん、おばあちゃんにお会いできたことは、きっと、目に見えないけれど、私の生きていく上での糧になっているはず。感謝、感謝である。逆に、どれだけ周りの方に還元できているかは、自信がないが・・。
今年の日本は、家族であっても殺し合い、見知らぬ人が突然銃を発射したり・・・など、思いもよらない事件が多くあった。
私の身近では幸いこのような事故、事件はないが、決して他人事ではない距離まで来ているような気がする。
怖い、という思いは強くなりつつある。
かといって、不安ばかり持って生きていくわけにはいかない。
人間は生きていくには、絶対一人では無理。それなら、人に感謝して、人を信じて生きていく方が不安は少なくなるはず。今の私は、まだまだ、感謝は足らないのかもしれない。
この1年、来ていただいた患者さま、妊婦さまはもちろんのこと、私たちを一番理解してくれて、いっしょに乗り越えてくれたスタッフ、そして、いつも励ましてくれた昔からの友達、感謝しているし、ありがたくて・・、大好きだ。もちろん、夕飯や朝ごはんが作れない日があっても、文句も言わずに、過ごしてくれた主人、子ども達にはもちろん、常々、ありがとう、と思っている。(あんまり口には出さないが・・)
来年も、今年以上に忙しくなりそうだ。
ハラハラするお産もあることであろう。2晩3晩家に帰れない日もあるだろう。
体が3つ欲しい、と思うこともあるだろう。
でも、元気に退院されていくお母さんと赤ちゃんの笑顔を見ることが仕事。
へこたれず、月並みな言葉だが、がんばっていこうと思う。
もちろん、二人四脚で・・・。
2008年もどうかよろしくお願いします。
eri.hosoda
12月20日
今日の私は、ほとんどクリニックの中。夜中の3時半に入り、今、夜の9時まで、ほとんど白衣で過ごした。
その間食べたものパン1つ!お茶ペットボトル1本!
少々最近ばてていたのでこれくらいの食事がちょうどよかった。(なのにやせないです・・・)
いろいろあった忙しい1日だったのに、なぜか、今日はすごく爽快な気分で仕事を終えた。
深夜には、未分娩の方もまだ落ち着いておられたので、休憩の合間に当直スタッフと主婦の会話をタップリ話し・・・(同い年のスタッフだったので意気投合!)
そして、私は8時半に日勤スタッフに申し送りをし、午前中、事務的な仕事を一気にやり終えた。銀行2軒、郵便局をはしごして、事務スタッフとの連絡確認などなど。午前中に必要な書類に押したハンコ10回!パソコンに向かうこと1時間半!などなど・・・(もともと事務作業は苦にはならないが、今やるべき扶養控除や年末調整という言葉は好きになれない・・わからない・・。)
昼から帝王切開を控えていたので、病棟へ手伝いに。
直接哺乳をやっているお母さんを介助してあげてほしい!とスタッフに頼まれて見に行くと、ゴクゴクと40g台哺乳。全く介助必要なし。久しぶりに満足そうな赤ちゃんの寝顔を見た。
そして、無事帝王切開。元気な女の子。心配したから、一安心。
・・・している間に、初産婦の方から、陣痛が来たと電話。院長初めスタッフみんなは、まだ、帝王切開中だったので、私が診察。
なんと、9センチ!
がんばって歩いた成果あったね!と感動しながら、陣痛室へ。
あっという間に分娩室、そしてお産。入院して1時間だった。初めてとは思えぬスピード出産。
いいお産で笑顔、笑顔、笑顔。お父さんも分娩立会いには渋っておられたが、私たちと同じように笑顔笑顔で立会い。「立ち会ってよかった~!!!!」って。
笑いの中でのお産。
スタッフもお母さんも、お父さんも笑顔・・。
そして、その気持ちのまま夜の外来へ。(今日は夜の外来番だった私。お昼まで忘れてた。)
外来の途中、夜中から入院されていた方の分娩があった。また、笑顔と感動。お父さんが間に合わないと思いきやギリギリセーフ。
お姉ちゃんも立会い。もちろん「よかったね!おめでとう!」の嵐。笑顔。感動。
今日1日で3人の赤ちゃんがたくさんの笑顔の中で生まれてきてくれたことは最大の喜びだし、疲れていても癒される。
そして、私の個人的思い。それは、スタッフがすごくスムーズに、連携よく、無駄なく動いていてくれて、こんなに忙しいのに、ずっとずっと笑顔でいてくれたこと、患者さまにはもちろん、スタッフ同士もすごくいい笑顔だったこと。助産師、看護師、ルームセクレタリー、受付事務・・。みんな笑顔で自分の仕事に溶け込んでいてくれたこと。
今日の私の疲れがないのは、お母さん、お父さんの笑顔、元気な赤ちゃん、待合で携帯から生まれた報告をするおじいちゃんおばあちゃんの声、そして、スタッフの笑顔、なのだ。すべてがすごく心地よく、うれしかった。
スタッフの笑顔が元気な赤ちゃんと同じくらいのパワーがある。
大きな支え。
そういえば、昨日のある一瞬の会話がよみがえった。スタッフの前で寝癖を気にする院長を前にあるスタッフが一言。
「先生、それくらいの髪の毛の乱れ、大丈夫です。私たちは身内でしょ~」って。
何気ないが、院長としては最大にうれしい一言、恵まれている証だ。
eri.hosoda