月別アーカイブ: 2008年11月

昨日、訃報が届いた。
クリニックを開業する前に、産科に関係するシステムを教えていただいた会社の社長さんが急死された、という訃報。
院長と同じ年齢、また、ご夫婦で会社を開業されたこと、など同じ境遇であり、数年経った今は、疎遠にはなっていたが、大切な方だ。
記憶では、社長さんとは直接お会いしたことはないと思うが、電話では何度かお話させていただき、一緒に会社を経営されている奥様は、わざわざ京都まで来ていただいて、お話しさせてもらった。(九州で会社を設立されている)
私たちは、毎日、生きていることを意識はほとんどしていない。
それが、当たり前になっている。だが、ふと、身近な人で不幸が起こると、命に対する不安がどっと押し寄せる。
いつもは、生きている現実は、「当たり前」「普通」だが、本当は、だれもが、命は、いつともなく予告なしに消えてしまうことが背中合わせである、ということ。
その奥さんは、お通夜の日に大切なメッセージとしてブログを書いておられた。
深い深いブログ、涙があふれて止まらず、読んだ。
以下、一部抜粋させていただく。

~略~
私にとって、子ども達にとって、最高の素晴らしい人でした。もちろん会社の社長としても・・・人として大事なことをわかっている神様のような人でした。


彼の音楽、デザイン、思想、歌声、努力、優しさ、ユーモア、細く長い美しい指、柔らかい髪の毛、そしてどこまでも大きく豊かな広い心。そのどれもが一流でした。


決して相手を恨まず、結婚15年間で人の悪口は一度も聞いたことがありません。私の愚痴を受けとめ、いつもいつも精一杯抱きしめてくれました。


最期は「人として一番幸せな死に方」だと医療関係者に言わしめられる「急性心臓大動脈解離」でした。それも超急性のほぼ一瞬で心停止した…という所見です。苦しみもなくあっという間にポーズボタンを押してしまった・・・。


友人のライブの応援に出かけた熊本で、自分も一曲歌って幸せそうにステージから降りた直後の出来事だったそうです。「幸せの瞬間のそのままの状態で止まった」死に方で、驚くことに笑顔のまま・・・。


~中略~


心肺蘇生を受けるショッキングな姿を家族に見せることもなく駆けつけた時は「笑顔のままの静かな還らぬ人」でした。音楽仲間に見守られ、私達残された家族をよろしく・・・と、言い残さんばかりの最期だったと同席の友人から聞きました。


そんな彼の出来すぎの一流の死に方は、最期まで私達を愛してくれていた証拠だと受け止めています。とてもかっこよく素敵で優しい、自慢の伴侶でした。深く深く愛していました。素晴らしい時間を共有できたことに心から感謝します。ありがとう。
~略~

遠く京都で、ご冥福を祈りつつ、たくさんのことを教えていただいた感謝を天国の社長に伝えたい、と思います。

普通に生まれて当たり前。・・・そうではない。
普通に寿命まで生きていく。・・・そうではない。

命の誕生は、当たり前ではない。
生きる意味、生まれてくる意味を教えてくださった。

                    eri.hosoda

母体搬送

毎日、新聞やニュースで「妊婦の受け入れ先がない」という話題が途切れない。
今、妊娠中の方やそのご家族は、不安でいっぱいだと思う。
細田クリニックでも、度々電話や外来診察中に質問を受ける。
「もし、異常が起こったら、どこに搬送されますか?」
「提携している病院はありますか?」と。
先に、その質問の答えを、述べておこうと思う。
京都は、母体搬送のシステムがきっちりなされている。
まず、開業医が1つ1つ総合病院に電話をかけて、空き状況を確認するのではなく、日赤にセンターを設けてあり、そこへ連絡すれば、どこの病院が受け入れ可能か即答してくれる。もちろん、その時点で、搬送先の病院にも連絡は行っており、受け入れOKである。こちら側としては、妊婦さん、あるいは、赤ちゃんの状態を直接その病院に連絡するだけでよい。
具体的に述べてみる。
細田クリニックにかかっておられる30週の妊婦さんが陣痛が起ってしまい、陣痛を抑える点滴を行っても、陣痛が止まらない。もう、赤ちゃんが生まれるかもしれない。それなら、未熟児室の完備されている病院が必要となる。そこで、センターに「30週の陣痛が起こっている妊婦さんがいます。」など、状態を連絡。そこで、未熟児室の空き状況、産科の空き状況を確認の上で、細田クリニックに病院の決定の連絡が来る。
その連絡が来次第、細田クリニックよりその受け入れ先病院に直接、連絡をいれ、状況を説明。それと同時に、救急車を手配し、搬送となる。
よって、搬送が必要!と決定してから、どんなに時間がかかっても、5分以内に受け入れ先の病院が決まり、搬送することができる。
もちろん、京都市内のどこも未熟児室、産科が満床、帝王切開中、という事態が起こっていることもある。先日も、京都の未熟児室がどこも空いておらず、細田クリニックから宇治の未熟児室のある産科へ搬送した。しかし、こういう場合でも、病院決定までに、5分もかからなかった。
もし、東京都のように、自分たちで行先の病院を1つ1つ電話で確認しながら探していたら、20分30分、いや、もっとかかる可能性はある。
産科は、1分と待てない状況の時もある、ということは100も承知のはず。

これは、あくまで、産科にきっちりと受診されている人に限る。
どこも産科にかかっていない妊婦さんは別であり、その妊婦さんがどういう状況であるかわからないし、まず、妊娠かどうかもわからない状況から救急搬送ともなれば、受け入れ先は、ほとんどないであろう。
きっちり、妊婦健診を受けていることは、自分を守ることの最低限である。
これで、細田クリニックにかかっておられる妊婦さまは一安心だと思う。
ここで、私の一つ言いたいこと。
先日あるテレビ番組で、「東京で、受け入れ先が決まらず脳出血で死亡した妊婦の症例について」有名なタレントが言い切っていた。
「受け入れ先の病院は、手術中であっても、ベッドが満床であっても、受け入れろ!手術が終わってすぐに診ればいいじゃないか、ベッドがなければ、廊下で見ればいいじゃないか!」と。
影響力のあるテレビで、しかも、断言力のある言い方で、言わないでほしい。
手術が始まれば、少なくとも、1~2時間は手術室から出てこれない。
その間、搬送された妊婦を放っておくなら、他に受け入れ先があるように祈りながら搬送を断って当然だと思う。
廊下でどんなケアができるというのか。せいぜい点滴程度。しかも、みんないる廊下でプライバシーもなく、修羅場の処置ができるのか。考えてみたらわかると思う。
私も、院長も未熟児室を持つ総合病院で何年も働いていた。
大きい病院だからといって、なんでも出来るはず、と思わないでほしい。帝王切開などの手術となると、他の外科や整形外科などの手術の絡み、麻酔科の手配、小児科の先生の依頼、呼吸器の準備、などなど、緊急であっても、緊急にならないこともあった。その間に、他のお産の方が進んでくることもある。未熟児室では、呼吸器が既に稼働していれば、新たに、呼吸器を準備しなくてはならない。もちろん、病棟には20人ほどの入院患者さん、および、10人ほどの赤ちゃんがいる。
昼間ならともかく、夜間は、その状況でも、2人の看護師でやり遂げる。産科医小児科医が何人もいるわけではない。夜間は、各一人。
そんな状況で、次々に救急を受け入れろ!なんて、逆に命の重さを感じない発言だ。
そんな状況で何年も働いていた。今は、逆の立場で、母体搬送をする側の立場になった。両方の立場として、考えてしまう。
幸い、細田クリニックから搬送された妊婦さんは大事に至らず、無事搬送先の病院から退院され、退院後に、元気な顔を見せてくれる。
本当に搬送先の病院には感謝している。
こうして、開業医の役割と、大きな病院の体制を理解している今、新聞記事やニュースの母体搬送受け入れなし、という言葉に、歯がゆく思い、心が苦しくなる。解決策はないようにも思うし、でも、絶対解決しなくてはならない問題。
私の結論!どうしたらいいのだろうか。今の日本の現状では、無責任な発言だが、京都のシステムの中でお産ができてよかったと思う。
                          eri.hosoda