月別アーカイブ: 2013年8月

帝王切開

先日、バスに乗った時の事。
ギュウギュウの人ごみの中、私のちょうど後ろの老婦人二人の会話が耳に入りました。
A婦人  「うちの次男の嫁、恥ずかしいことに、帝王切開したんや。根性ないやろ。もう、がっくりやわ。ま、子どもは元気やったらしいけど・・。」
B婦人  「そんなん、今の人はしゃぁないわ。私らのときは、陣痛来て3日でも4日でもがんばったけどな・・。娘ならがんばれと言えるけど、息子の嫁には言われんしな。」
A婦人  「そうや。まだ、予定日来てないのに、陣痛もない時に、帝王切開の日決めて、この日に生まれます・・って言うんや。あきれるわな。人様に言われへんわ。」

すぐ、真横ではっきりと聞きたくない会話が私の耳に入ってきます。
ちゃうちゃう!帝王切開をダメなことみたいに言わんといて!と、心で叫んでましたが、公衆の前。
グッとこらえました。
陣痛来る前、予定の帝王切開、という内容から、おそらく、理由があって帝王切開になったことは、想像できます。
たとえば、骨盤位(さかご)、前置胎盤(胎盤が子宮の口を防ぐ)、母体に理由があること(合併症があるなど)
などなどです。そこのところ、このA婦人、息子夫婦から聞いてないのか、聞き逃しているのか、聞いてないことにしているのか・・。帝王切開イコールいけないことと、B婦人に話しこんでいるのです。
出産のゴールは、元気な赤ちゃんを産むこと。手段を選ぶことではありません。
必要のない帝王切開は、ありません。理由があって行う手段です。経膣分娩だけが金賞ではありません。
こんな婦人同志の会話の内容、情報が豊富な今の時代ではありえないと思いきや、まだ、間違った解釈をされる方がいらっしゃるのです。ここのお嫁さん、どこの誰かわかりませんが、間違った理解をされて、かわいそうに、気の毒に・・と思ってしまいました。
たった10分ほどのバスの中、いやな思いの時間でした。

妊娠・出産は、一言では言えないほど、いろんなケースがあります。
また、妊娠に至るまで、自然妊娠だけでなく、多くの不妊治療も進んでいます。
妊娠中も、出生前診断が一般新聞の記事やニュースに話題になるくらいです。
それは、妊娠が喜びだけでなく、妊娠中の不安や悲しみも増えることになります。
高齢妊娠も増えました。望んでいない若い妊娠もあります。
いつの時代も、子孫を残す、男女の結婚生活イコール子どもができる、10か月の妊娠そのものの生理的変化や根本は何も変わりないと思いますが、更に深く何かを知る、何かがわかる、という点では、昭和初期とはずいぶん違ってきていると思います。
いろんなことを知ることや、選択肢があることは、良い面もあり・・、難しい面もあり・・、行き過ぎた面もあり・・、助かる面あり。
外来や一つ一つの出産を見ていて生に感じるだけでなく、クリニックを出て、バスに乗って聞こえる会話の中でも間接的に考えてしまう毎日になってきました。
eri.hosoda

また違う、うれしさ

先日、あるお産に立ち会いました。

10数年の友だち、正確には、私より一回り以上年下の後輩が出産しました。
彼女は4人目の出産で、2人目3人目も私が、そして、今回4人目も私の担当で産まれてきてくれました。
何カ月か前、「もし、陣痛始まった時、私がいなかったら、スタッフに任せるね。いい?」と伝えてあり、
本人からも「いいですよ。細田クリニックで2人産んでるから、他のスタッフさんもいい人ばっかりなの、知ってるし。」と言ってもらってました。
そう言われても、姉のような心境で気になって、久しぶりに前日にメールしました。
「変わりない?」と・・・。何だか、予感がしたのです。
返信は「変わりないです。まだみたい。」ということ。予感はずれたか・・と思いきや・・・。
それから、数時間後の明け方、彼女から電話がかかってきました。
「陣痛来たみたい・・。今から、行きますね。」
それから20分後クリニックに着いて、それから1時間半後、陣痛発来から2時間半くらいで、元気な元気な男の子、正式には四男くんが生まれてきてくれました。パパそっくりで、お兄ちゃんたちにも似ていて・・。
お腹にいるときから、男の子とわかっているものの、やっぱり、もう一回おちんちん、確認したりして。
笑顔いっぱい、素敵な、出産光景でした。
パパも仕事前で、しっかり立ち会ってくれました。
3番目のお兄ちゃんは、おばあちゃん家でお留守番でしたが、1番目1年生、2番目保育園のお兄ちゃんは、しっかりと立ち会ってくれました。
ママの落ち着いたお産も感動しましたが、違うスポットが、私の二つめの感動として映りました。
それは、1番目のお兄ちゃん。
ママがまだ余裕ある頃は、弟と二人でパパに絡んだり、椅子に座ったり乗ったり・・。
それが、ママが辛さピークになって来た頃、子どもたちの動きも口数も少なくなってきました。
そして、1番目のお兄ちゃんが・・・。
目には涙をいっぱいためているのです。
でも、必死で耐えている・・。弟の手前か、大人がたくさんいる手前か、がんばって、涙をこらえているのがわかります。
でも、ママの顔を必死で見つめています。
「ママの手、握ってあげてごらん。」と言っても、恥ずかしさともう一人弟が生まれるドキドキな気分で、手がママにまで出ません。前に手を出そうとするけど、その手は止まってしまいます。
やっとの思いでママの手に、自分の右手を添えるけど、ママの辛さが余計に伝わってくるのか、すぐに自分の背中に戻してしまう右手。
左手はパパの手を、右手は時々溢れそうになる涙を拭きとり、しかも、誰にもわからないように・・。
そんな、けなげなお兄ちゃんを私は、しっかり見ていました。
ママはもちろん、パパも子どもたちの様子を観察するどころではありません。
まだまだ、子ども、と思っていても、しっかり、お兄ちゃんになっていました。
いい子に育ってました。やさしい長男に育ってました。感受性たっぷりの男の子に育っていました。
パパとママの日常が、しっかり、映し出されていました。
お産で見える家族の色。
こんな身近な友だちで、家族みんな知っているけど、それでも、やはり感動します。

お産は、血や傷や命だけでなく、その後ろにある家族の色も見えてきます。
その家族の色が見えても、直接、医療に影響することではありませんが、少なくとも、心がドキンとする、そんな家族の色が見えると、私を始めスタッフみんな、次もがんばろう、忙しい日もがんばろう、と思えます。
それを改めて感じさせてくれました。
N美ちゃん、心を晴れさせてくれるお産でありがとう。
eri.hosoda

不妊治療

先日、不妊治療助成金の年齢制限を設けよう、という動きが厚労省から報告されました。
産婦人科に携わるものとしては、この報告がどう動くか、注目です。
その内容は、今までは、年齢制限が設けてなかった日本の「不妊治療助成金」ですが、「42才まで」という年齢制限を設けよう、というもの。
そもそも、この不妊治療助成金の制度を開始する時点から、対象年齢は、決めておくべきことでしょう。
国民にこの助成金制度が知れ渡ってから、改めて・・というのは、国民から反発意見が出てきて当然です。

一個人としては、賛否両論・・という、あやふやな・・感じ。
年齢制限の必要性は、もちろん、感じます。
児童手当て(旧・子ども手当)は、日本に住居のある15才以下の子どもに全員に支給され、平等です。
その、児童手当ですら、年齢制限があります。ますます、お金がかかる高校、大学に行くという年齢に差し掛かる、その直前の年齢で児童手当は終わってます。
そこからお金がかかるので児童手当はもっと長く欲しい・・と思っている方も多いと思いますが、国の決まりで15才以下となっている以上仕方ありません。
このことを不妊治療助成金制度に当てはめたら、年齢制限は必要かと思います。
世界の各国でも、ほとんどこの助成金の年齢制限を設けていますから。

反対に、年齢制限を越えたから不妊治療はダメだ、意味がない、というわけではなく、
ご夫婦で相談された結果、妊娠を希望されている、という結論があっても不思議ではありません。

それはそれで、リスクも承知の上、だと思います。
そのリスクとは、年齢が高くなれば、妊娠しにくい、流産しやすい、妊娠できた場合も、胎児側の問題、育児の問題、それ以前に、妊娠という経過を高年齢で背負うことの命の危険性(高年齢に限らず妊娠出産は命がけです)、命に関わる母体の合併症などなど。
承知で行っている不妊治療まで否定されるような報道がなされていることが、問題です。

つまり、助成金制限が治療の制限と捉えてほしくないと思います。
助成金が切れるから、治療をやめるという方は少ないはず。
不妊治療にも、一部は保険適応になっていることもあります。例えば、排卵誘発の内服や超音波検査など。

つまり、この制度のスタート時点から、考慮しておいて欲しかった内容・・。
助成金制度が開始された、約10年前、「年齢制限はないのかな?」「日本の国もお金持ちだな・・これから先、不妊治療される方はドンドン増えるだろうに・・」と、頭をよぎった記憶があります。
まさに、そうなったわけですけどね・・。
しかも、この制度とは別に、特定治療(体外受精や顕微授精など)支援事業というのがあるのですが、これに関しては、婚姻届が出されている夫婦のみが対象となっているのに対し、今回の年齢制限が云々言われているこの制度は、婚姻届が必要ではないのです。この違いも大きな疑問が残ると思います。

おそらく、国から年齢制限はなされる方向ですが、決定されれば、混乱をきたさないように、不妊治療を受けておられる方にお財布だけでなく、気持ちの上で影響があることを考えていかないとなあ・・と思います。
今回、ここに書いた内容は、私の個人の考えであって、
現実は、人によって不妊の助成金はいらない!とか、逆に、年齢制限は必要ない・・!とか、もっと金額アップを・・!とか・・いろんな意見を聞きます。あって当然だと思いますし、どれも正当な根拠があっての意見のはず。
個々の意見を吐き出すのは自由ですが、それでも、国の決まりごとは守っていかなくてはいけないのも現実・・・・。
eri.hosoda