月別アーカイブ: 2008年2月

救急搬送

最近ニュースや新聞では1日1回は、医療の崩壊、産科の減少、などの内容が報道される。
本当にあった出来事???と思うくらいひどい内容もあり、今、京都の真ん中にいる私には信じられないこともある。
京都市内は大きな病院が閉鎖と言うこともなく、産科に関しても、日本一と思われるくらい多い地域になっている。
今、右京区に住んでいて、産婦人科を選ぼうと思えば、大きな病院だけでも、4か5病院あるし、個人の産科に関しては、10は超える。すごく恵まれた環境であり、喜ばなくてはいけないのであろう。
そんな中ニュースや新聞での出来事を目の当たりにした。
数日前、大阪市内の妊婦さまが、大阪市内から細田クリニックに搬送されてこられた。救急隊の話では、その妊婦さんは、産科の異常ではなく、内科の症状であったが、『妊娠中である』という理由だけで、どこの内科の病院も断られたとのこと。産科のある病院であっても、ほとんどの病院は、『うちにかかってないと診れません。かかっている産科に行ってください』と言われたそうだ。ということで、細田クリニックに大阪市内から救急搬送されてこられたわけだ。真夜中の出来事。こうして、受け入れ先病院を見つけるのに時間がかかり、受け入れが決まるまで1時間かかった、などと報道されてしまうのだろう。
搬送されて来られた方は内科的症状であったが、一刻を争うことはなかった。もし、一刻を争う状態だったらどうなっていただろうか、と思う。
もちろん、産科であっても産科以外の診断もする。かといって、最初から内科の症状と判っていて、診察することもせずに、産科に行きなさい、と言うのはどうか?と思う。
今までも、妊婦さまや婦人科の方が内科に搬送されて、内科的に問題ないので、帰宅する前に念のために産科で見て欲しい、と、内科医から搬送されてきた例はよくある。それは、まあまあ筋道が通っている。(しかし、ほとんど夜中の出来事で、内科で問題なく帰宅でき産科の症状がないのなら、朝まで様子を見るか、電話で様子を聞いて判断したりできるのであるが・・そのあたり内科医により判断が違ってくるのだ、それは仕方ないかと思う・・)
なのに、大阪では、本当に受け入れすら拒否があるのだ。救急隊の困り果てた生の声でわかった。
(もちろん、本当に受け入れられない病院もある。手術中で医者が手を離せない、本当にベッドが満床、などなら仕方ないのだが。)
私自身、救急車での移動は、何度か経験している。レースのようだ。座っていても、振り切られそうで、足で踏ん張らなくてはいけない。赤ちゃんの搬送のときは赤ちゃんをしっかり抱き、体全体を車のふちで押し支え、車に乗って数分で車酔い状態であるが、不安げな家族に笑顔で接したこともある。近距離だから耐えられる。急ブレーキ、蛇行運転は当たり前。そんな搬送が患者さまにとっていい訳はない。リスクは遠くに行けば行くほど高くなる。最短であって欲しい。
このままだと、本当に医療崩壊になりそうだ。いくら大阪府知事が橋下弁護士になっても、すぐに、どうにかしてくれるとは思えない。人任せではなく、医療する側、受ける側、両方とも何が問題なのか、洗い出して解決しないと、ますます、産科がなくなり、残る産科も簡単には受け入れが難しくなってくる。
と、こんなちっぽけなブログで論じても、解決にはならないのだが・・・。
                           eri.hosoda

未知の世界、お産

お産は未知の世界。
初めてのお産となれば、どこまでこの痛さが続くのだろうか?もう耐えられない、いつまでがんばらないといけないのか?こんなに痛いのにまだうまれないの?などなど、どんなに待ち望んでいたお産とはいえ、不安はあって当たり前だろう。
「この陣痛を待ってたんだよ、早く出ておいで」とだけ思えればいいが、人間誰しもそんなに聖人ではない。痛いものは痛いし、つらいものはつらい。
あと何時間・・、という、筋書きもないし、教科書どうりの進行ではない。それだけではない。予告もなく異常はおこる。どんなにいいお産であっても、赤ちゃんがしんどくなることや、また、スムーズに終えた跡に出血が止まらなかったり、全くそこまで問題がなくても血圧が突然に上ったり。経膣分娩でも、帝王切開でも、異常と正常は隣り合わせだ。
そんな毎日、一人、二人、と生まれてくる赤ちゃん。

昨日のお産も、初産婦さん。
まだ夜も空けない5時の入院。
破水だけの入院で、まだまだ、陣痛らしい陣痛はない。まだ、子宮口はほとんど開いてない。
お昼までは、食事がほとんど食べられるくらいまだ余裕があった。
お昼過ぎから呼吸法が必要な痛さがあった。でも時々。
15時に5cm。その頃から規則的に陣痛が来た。お父さんも会社を早退し来院。
17時過ぎに9cm。18時半に全開10cm。
初産婦さんにしたら進行が早い。
早めに分娩室に入り、気分を慣らしていく。
私も、赤ちゃん係りの看護師も、そして、もちろん、お父さんも、今から生まれようとしている赤ちゃんを待ち望んで準備する。
お母さんはすごくしんどいのに、会話がスムーズで途切れない、呼吸法も全く無駄なく出来ていて、赤ちゃんも全くストレスがかかっていない。
「あと何回いきんだら生まれるの?教えて~10回でいい?10回って言って~。7時くらいに生まれる?それ以上かかるの?」
・・あと何回と言われるのが一番つらい。早く楽にしてあげたいが、あと何回と知りたいのは、私も同じだから。
『じゃ、とりあえず10回いきんでみようか。それから次の目標決めよう。』
『上手に出来ているから7時目標にしようね。私が青い服を着たら赤ちゃん出る準備だよ。まず、それ目標にしようか』
「もう頭出た?青い服まだ着ないの?」
いや、頭が出たら、もうあと数秒でおめでとう、なんだが、頭が出るまでが時間がかかる。まだまだ。
『頭のてっぺんが陣痛の合い間も見えてきたよ、いきむたびに大きく見えてくるよ』
私と看護師の二人で言葉をあれこれ変えながら、お母さんを励ます。右手はご主人、左手は看護師、陣痛の合い間は気分を紛らわすのに私の太ももをキック、キック。会話は途切れることなく過ごす。もちろん、私たち医療者は楽しいだけではいけない。予告なしに訪れる異常には対応できるように緊張感はある。顔で笑って、楽しい会話をして、頭の中はバリバリ神経を張り巡らす。
そして、院長登場。
「呼吸法もいきみ方もうまいな、もう少しだ」
さらに、お母さんはもっと上手にいきめて・・・そして、元気な男の子が生まれた。すぐに大きな声で泣いてくれた。なんと、目標にしていた7時3分。10回いきんだら、と言っていた10回目のいきみで!
おめでとう!
お母さんは成し遂げたあと、すぐ赤ちゃんを抱っこして感動。
お父さんは・・・。
めがねの奥からあふれる涙を必死でハンカチで押さえておられた。声も抑えて、顔を上げられないほどの涙。実はお父さん、お産が怖かった。点滴も、血も、診察すら怖かった。でも、必死で一緒に呼吸法をして、ギュッとお母さんの手を握って、一緒にお産をしてくれた。
まだ、生まれたままの赤ちゃんを抱き、泣き笑いのお母さんの横で、感動の涙で声が出そうになるのを抑えるお父さん、それでも、そっと、生まれてきたわが子の足先を触る。
そして、私たちは、「本当にお母さんもお父さんも○○くんも(生まれる前からお名前が決まっていたのでみんなで呼んでいた)がんばりましたね。おめでとう、良かったね」と心から祝福。
いつもの光景だが、いつも、違う感動をする。今日も感動。
いいお産。楽しい会話の中で、無事、異常なく終える。
こんなに幸せなことはない。よかった、と心底思う。
それは、”お産は命がけ”だからだ。本当に・・。
                     eri.hosoda