細田クリニックのひとりごと

産科

先日、産婦人科医の過失と言う理由で、裁判が行われて、無罪が確定された。
ほっとした。心底。それは、医師だけでなく、私たち医療関係者はみな胸をなでおろした。
医療を行うことの中で、命を救うことは当たり前のことであり、この患者さん、この妊婦さんは死んでもいい、なんて思ってる医師、医療関係者は誰一人いないと思う。結果、どんなに必死ですべての力を、いや、120%のすべきことをおこなっても結果がでないときもある。こんなに医療が進化していても、この日本で年間50人ほどの妊産婦さんが死亡という現実がある。京都でも、去年3人の妊産婦さんの死亡例重体例を聞いた。しかも、開業医ではなく、大きな病院で・・・。
先にも書いたが、この裁判で無罪でなく、もし、有罪であれば、おそらく、産婦人科医はさらに激減したであろう。院長も、口だけであろうが、「辞めようか・・」と言っていた。
産科医の40%が60才以上の高齢の医師の上、女医さんが、どんどん産科をやめ、婦人科だけの外来だけとか、健診だけ、というパターンに変えられている。開業医産婦人科の息子でさえ、産婦人科を選ばない。
そんな時代。
それは、産婦人科は昼夜関係ない。365日拘束。元気で生まれて当たり前。
一生懸命やった結果であっても、何かあれば、訴訟がついてくる。
60才以上の年齢では、きつくなってくる。体力的にも精神的にも。
(60才になってなくてもきついが・・)
女医さんはなぜだろうか。育児子育て・・それらが終わったらドンドン産科に復帰して欲しい。もちろんそれには、家族の協力は不可欠なのはよくわかる。
私なんか、昼間はずっとクリニックの中。夜も一週間のうち半分は、クリニック。ひどい月には、子供の弁当は下ごしらえはしてあるものの、朝、詰め込むのは、私が2~3回主人が10回以上、さらに、私も主人もクリニックという日は、子供が、詰め込んでいく日もあった。家事も自然に夫婦分担。子供もキッチンに立たなければ食べていけない。そこまでして、仕事優先がいいのかどうかわからないが、そうせざるを得ない仕事と割り切っている。私も家族も。もちろん、私も家事をしなくては・・、と思うストレスはないわけではない。5時に帰っていくスタッフを見て、今から母になり、主婦になるんだな、と思うと切なくなることもある。でも、この3年間やってこれている。(もちろん、家族だけでなく、スタッフも家族のように助けてくれているからだが)
だから、若い女医さんに復活してもらえば、もっと産婦人科医が充足し、産科医療にゆとりも出てくると思う。
女医さんであっても、男性医師であっても、お産に対するストレス、時間の拘束は同じはずだが・・。
私の知っている女医さん、たくさんおられる。なぜか、多くの先生が、産科を辞められた。すごく尊敬できて、腕もよくて、笑顔も素敵で・・・。なのに、なぜかな?と思ってしまう。もったいない。こんな要領の悪い私でも(女医ではなく助産師であるが)、夜ほとんど拘束、実働をやりこなせているのだから、もっと、優秀な女医さんはもっと、てきぱき、要領を得て、産科医療ができるはず。
今、全国で産科医(お産に対応している医師)は7000人だそうだ。こんなに、人口の多い日本で、たったの7000人。さらにドンドン減っていく予測。
本当にどうなるのか。生むところがなくなれば、昔の中国のように一人っ子政策なんかが出てくるかも。
それほど、深刻な問題。生む場所がなくなる→だから、数少ないお産施設に集中する→そうなると、そこの産科医はさらに激務→だから、辞める→大きい病院も閉鎖→異常なお産を受け入れてくれる大病院がなくなれば、周りの開業医も閉鎖→妊婦さんはどうしたらいいの?
これが、近い将来訪れるお産事情だ。
難しい話にも思うが、しっかり、国レベルで対策をもらう、かつ、政治家や臨床から離れた人で決めるのではなく、今、産科医療に携わっている人の現状が受け入れられる生の対策を考えて欲しいものだ。
余談だが、先日、大阪府の橋下知事が「私立の学校への公的援助金を削減する」という意見をだした。
「え?学校は、私立でも、公から援助があるのか。病院は私立でも援助はないのにな」と、思ってしまった。歯がゆい話だ。
             eri.hosoda